こんにちは
今日も私のブログをたずねて下さってありがとうございます。
今日の一曲は ”誰かが私を見つめてる”
Someone to Watch Over Me
です。
概要
Someone to Watch Over Me は 1926年の楽曲で、作詞作曲はあのガーシュウィンブラザーズです(作曲:弟のジョージ(写真左)、作曲:兄のアイラ(右))。
日本語タイトルでは『誰かが私を見つめてる』、とか『やさしき伴侶を』などと言われます。
統一して欲しいっスね…
そして、もっと言うなら『誰かが私を見つめてる』というより『私を見守ってくれる誰か(が必要なの)』という歌なんです。今、(彼が)私を見つめてくれないからそれを願っているという。
そして、この曲は多くのスタンダート・ジャズナンバーと同じく、元々はミュージカル “Oh, Kay!” のために書かれたものでした。
ガーシュイン兄弟
兄弟による世界的大ヒットはこのほかに
“But Not For Me”
“Embraceable You”
“I Can’t Get Started”ー言い出しかねて
“I Got Rhythm”
“I’ve Got a Crush on You”ーあなたに首ったけ
“Love Is Here To Stay”
“Nice Work if You Can Get It”
“The Man I Love”
“They Can’t Take That Away From Me”ー誰にも奪えぬこの想い
“‘S Wonderful”
などがあります。
そしてもう一人、この曲作りをサポートしたのが
アメリカ人の作詞家・Howard Dietz(ハワード・デイツ)でした。
“Alone Together”や ”Dancing in the Dark” の詞も彼の手によるものです。
で、まずはひと悶着。
デイツは
『僕はアイラが盲腸で6週間入院している間に Someone to Watch Over Me の作詞を手伝ったが、
作品には自分の名前はクレジットされず、しかもギャラもとても安かった』と言っています。
また、 “Someone to Watch Over Me” というタイトルを提案したのも自分である、と主張しています。
出ました!音楽業界トラブルあるある。
もっともアイラは後年(かなり後年ですが…)これを認めているので、この問題は解決したのでしょうかね?
ちょっと気になりますけどね。。
さ、次にミュージカル “Oh, Kay!” についてお話したいと思います。
ミュージカル “Oh, Kay!”
まず、Kay (ケイ)とは主人公である女性の名前です。
当時のポスターを見るとフラッパーな感じで紹介されているものが多いです。
(フラッパーとは1920年代に流行したファッション、ライフスタイルで、それまでの女性らしさの概念を打ち砕くミニスカート、ショートのボブヘア、濃いメイクなどで遊びまわる、まぁ、派手でお下品な女、みたいなニュアンスを込めて使われた呼び名です)
ラブコメ的な雰囲気がよく出ていますね。
そんな “Oh, Kay!” は 1926年に上演され、
ニューヨークでは200回を超える成功となり、翌年1927年にはロンドンでも上演されました。
これはガーシュウィン作品の中では最長のロングランとなっています。
評判のほうはというと米・英ともに非常に称賛され、
米国では『今年最高のミュージカル』、『ミュージカル・コメディーがここまで心から楽しめるのはめったに無い』などと絶賛されました。
もっとも、この作品は制作の段階から両国がしっかり連携していたので、どちらの国でもヒットする下地はあったと思われます。
楽曲:アメリカのガーシュイン兄弟
脚本:イギリスのウッドハウス&ボルトンコンビ
プロデュース:アメリカ
という”分業”をZoomもメールもない時代にきちんと完成させたなんてちょっと今では考えられませんね。
かなり大変なプロジェクトだったと言えるのではないでしょうか
ストーリー
物語は、裕福なロングアイランドの邸宅で繰り広げられます。
⇑ 検索するとこんな感じの画像が出てきます。
主人公は前述したように、Kai ケイです。
そしてもう一人の主人公はジミー。
ジミーは結婚を目前に控えているものの、婚約者とはあまりうまくいっていません。
さて、話はとある密輸団のメンバー(ラリー、ショーティー、そしてその妹ケイ)がジミーの家に密造酒を隠そうとするところから始まります。
しかし、予想外の事態でケイがジミーの家に滞在することになります。
ところがある時、メイドに扮していたケイが実はイギリスの貴族の娘であることが判明します。
ドタバタの展開の中で、いつしかジミーはケイに惹かれるようになり、二人は真実の愛を見つけることになります。
アメリカの大富豪、落ちぶれイギリス貴族、そして密売人など様々な人種が入り混じって、犯罪、ロマンス、風刺などを盛り込みまくったワッショイワッショイなストーリーですが、これが1920年代の典型的なミュージカルのスタイルだったそうですよ。
まぁ、これだけ色々あるからこそ様々な楽曲を盛り込ませることができたと言えるでしょう。
Someone to Watch Over Me の使われたシーンとは
では、そんなドタバタな劇中で Someone to Watch Over Me はどんなシーンで使われたのでしょうか?
それは主人公ケイが舞台に1人で登場し、その時は片思いだったジミーを思って歌う場面です。
ケイは古びたぬいぐるみの人形(男の子の人形)に向かってこんな風に心の内を打ち明けるのです。
『私はひとりぼっちの子羊のよう
彼が振り向いてくれたら幸せなのに
私には見守ってくれる誰かーSomeone to Watch Over Me が必要なの』
この”人形に向かって打ち明ける”というアイデアは監督でも演出家でもなく、実はジョージ・ガーシュウィンによるものでした。
ジョージは音楽以外に演出や振り付けや小道具担当までこなすプロデューサー的なことも行っていて、この人形のアイデアも彼によるものでした。
今じゃ”ぬいぐるみに向かって話す”って映画やドラマでは普通の演出ですが、もしやこれが最初だったのかも!?
ともかく、ステージ上でひとりボロボロの人形に向かって “Someone to Watch Over Me” を歌うメイド服のケイの姿は、主人公の孤独感と願いを一層際立たせ、大成功したのでした。めでたし。
そんな「ボロボロの男の子の人形」の画像を載せようと、検索したりAIに作ってもらったりしたのですが、
チャッキーみたいなのとかホラー画像ばっかり出てくるので困りました(笑)。
⇓ こういう。怖すぎるだろ。
⇑ これに至ってはブードゥー今日の呪いの人形だろ!!!胸が痛いわ。違う意味で。
本当の私のイメージはこちらなんですけどね(;^_^A
・・・それでは気を取り直して歌詞のほうを見てみましょう!
歌詞概要
※このテーマでは著作権保護のため、歌詞(英・日共)は掲載せず
適正な引用のみでお届けしております。どうぞご了承くださいませ。
限られた表現の中ではありますが、歌の世界を楽しんで頂けましたら幸いです。
(Verse)
愛は盲目っていうけれどこうも言うわね
「求めよ、さらば与えられん」
だから私は諦めないの
忘れられないあの人を
彼のイニシャルと私のを重ねてモノグラムにしたいわ(*1)
この迷える子羊の羊飼いさんはどこに居るの?
(Chorus)
どこかに私が探しているその人はいるの
私は迷える子羊だけど、彼が私を見つけてくれたらずっといい子にするわ
誰もがハンサムと認めるほどではないけれど
彼は私のハートの鍵を持っている人
ねえ、もう少しスピードをあげて(私を捕まえにきてくれない?)
どんなに私があなたを想っているかわかって欲しい
(*1) モノグラム= CHANELのCCや、ルイ・ヴィトンのLVのロゴのようにイニシャルを重ねたもの。
結婚して二人のイニシャルを重ねたい、という意味です
参照動画
1.私にとっての Someone to Watch Over Me はこの人。少女のような声が曲想にぴったりだと思えるのです
2.Stingが男性目線で「彼」と「彼女」を入れ替えて歌っています。その場合『彼は皆がハンサムと認めるほどじゃないけれど』を、『僕は皆にハンサムと言われる顔じゃないけど』と変えています。
3.カントリーの巨匠、ウイリー・ネルソンの演奏も素晴らしい!
Etc.
以上、いかがでしたか?
いずれも当然のようにバラードですね。
その他のアーティストによるものでも Someone to Watch Over Me は全てバラードといっていいと思います。
でも実は、当初この曲は『速くてジャジーな曲を』というオーダーを受けてそのように作られていたのです。
オリジナルの楽譜には scherzando(スケルツァンド=戯れるように・おどけて)と記載されています。
また、劇中でもどの場面で使うかは決まっておらず、ただ『どこかのシーンでダンスのナンバーとして使う』とだけイメージされていたそう。
これは当時のガーシュイン作品ではよくあった事でしたが、どっかで使うからとにかく書いてくれ!って感じですかね(笑)。
ということでとにかくこの「速めのジャジーな」Someone to Watch Over Me がまずは生まれました。
そして今のようなバラードに定着したのはほんのちょっとしたきっかけ。
ある時この曲をジョージがスローで弾いてみたところ(弾いている途中で誰かが急に部屋に入って来たので、とも言われています)、”これは切なく温かみのあるバラードになるぞ!”と直感し、それを採用したのでした。
その後、使用する場面が決まり、アイラが詞を書き、ようやくミュージカル曲として完成したわけです。
しかし!
問題はそこでは終わりませんでした。
Someone to ~ は一旦は採用されたものの、他の曲と差し替えようか?という案が出たのです。
その”他の曲” とは?
ハイ、それはやはりガーシュイン兄弟がこの2年前に作ってお蔵入りしていた “The Man I Love” だったのです。
確かに、内容的には同じく「いつかきっと愛する人に出会える」というものなので差し替えはできたでしょうが、もしそうなっていたらこの Someone to ~ は幻の名曲になっていたのかも‥?
あの Fly Me to the Moon もリリース当初は全く日の目を見なかったのですから、ひとつの偉大な楽曲がヒットするか消えてしまうかは運も大きく関わっているのだろうと思わざるを得ません。
あ、徳永英明さんの「Rainy Blue」もそうらしい。
どんなジャンルにしろ、良い曲が埋もれずに生き返るというのは嬉しいですね。
それでは最後に
これからこの歌を覚えようという方に一言。
ぜひVerseから歌ってください
最後にこの曲をこれからレパートリーにしようと思っている方、そしてやってはいるけれど
ヴァースを歌っていない方にお伝えしたいのが
”ぜひともヴァースを歌って!”という点。
本編の「どこかに愛する人がいるはず」という切なく叙情的な歌詞の世界は
独り言として夢見るようにつぶやく告白のヴァースでぐっと引き立ちます。
blind~find~mind
yet~forget~regret
monogram~lamb
ときれいに韻を踏んでいるところも美しく、耳にも快いです♥。
ぜひあなたらしい素敵な Someone to Watch Over Me を歌ってくださいね。
“I’m a little lost lamb…”
See you next time!