前半から
前半では My Funny Valentine が使われたミュージカルと映画のお話をしましたが、後半はいよいよ楽曲と歌詞についてです。
My Funny Valentine-楽曲と歌詞について
ヒットしなかったリリース当初
My Funny Valentine は今でこそ知らない人はいないほどのスタンダードではありますが、リリース当初からヒットしていたわけではありませんでした。
何しろ舞台で主役を演じ、My Funny ~ を歌った本人 Mitzi Green(ミッチ・グリーン)による歌唱もレコーディングされていませんし、1945年に録音された他のバージョンも全く注目されませんでした。
続く1947年の伝記映画でもダメ。
もっとも、これでリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートの名前は有名になったのですが、なんせ元々の映画版に使われなかったのは痛かったんですね‥。
ようやくのヒット
しかし!ついに!やっと!
この歌が日の目を見たのはイギリス生まれのキャバレー・シンガー、Mabel Mercer(メイベル・マーサー)のお陰でした。
その彼女の演奏を聞いたのがあのチェット・ベイカーとジェリー・マリガンだったのです。
メイベル・マーサー。素敵。
そしてそれを聴いたチェットとジェリーがレコーディングした、と言われています。
稀有なその歌詞の世界
さて、いよいよ”普通でない”この歌詞についてです。
だって…
愛のバラードなのに
『キミの顔といったら笑っちゃう。写真映えもしないよね』とか、
『スタイルもギリシャ彫刻みたいとは言えないしさ』
『しかも空気読めないし』みたいな。
毒蝮三太夫か!
でもね、
『その髪型を変えないで』
『そのままでいて。毎日がバレンタインデーだよ』
と上げて終わっております。
そこも蝮師匠と一緒ね。愛ある暴言(笑)。
それではそんな歌詞を見ていきましょう
歌詞概要
※このテーマでは著作権保護のため、歌詞(英・日共)は掲載せず
適正な引用のみでお届けしております。どうぞご了承くださいませ。
限られた表現の中ではありますが、歌の世界を楽しんで頂けましたら幸いです。
『僕の大好きなファニーなキミ
かわいくて、キミを見ていると笑顔になってしまう
笑っちゃうような顔だけど、写真映えもしないけど
僕にとっては素敵なアートなんだ
ギリシャ彫刻みたいでもないし
喋りもうまくない…
でも僕のために髪型を変えたりしないで
そのままでいて欲しい
毎日がバレンタインデーなのさ』
どうですか
この”ファニーで可愛い恋人”はこれを聞いて一体どう思ったのでしょうね?(笑)。
リチャード・ロジャースはこう言っています。
『My Funny Valentine ほど優しさが心に触れる歌詞はない』と。
その通り、今ではこのイジワルな歌詞を本気に取る人はいませんし、むしろピュアでロマンティックな歌詞だと感じていますよね。
誰が誰に歌う?
面白い話があります。
以前あのスティングがステージでこの曲を奥さんに捧げた時のこと。お客さんは
『笑っちゃうよ、キミのその顔には』、『写真映えもしないよね』というところで思わずクスクス笑ってしまったそうです(笑)。
だって奥様のTrudie Styler(トゥルーディー・スタイラー)は鼻筋の通ったすらりとした金髪美女なんですから。
スティングの愛あるジョークだった、ということですね。
それからまた別の話としては、ロレンツ・ハート自身が自分のことを言った、というのもちょっとあるようです。
ハートはしばしば作品に自分のことを書くというのがあったようで、My Funny Valentine にも『全然イケてない僕』という意味をこめて書いたと言われています。
確かにハートは十代の頃からの飲酒でかなりのアルコール依存症でした。
そんな自分の事が嫌いで、周りの人々からも背が低くて葉巻臭い自分は嫌われているの違いない、
とずっとウツに悩まされていました。
また、同性愛者であることを隠していたのもネガティブな自己評価につながったと言えるでしょう。
この歌詞でロレンツ・ハートは自分が同性愛者であることを告白したのではないか、とも言われているのです。
そう考えると私などは、この「キミ」へのディスり方は男性から男性への歌だと考えると妙にしっくり来るのですが皆様はどうですか?
でも実際は、My Funny Valentine は女性から男性に歌う歌、とされることが断然多く(歌唱の場合ですが)、
要するにそのほうがカルチャー的に受け入れやすい場合が多い、ってことですね。
上記の日本語訳は、本来のシチュエーション通り「男性から女性へ」として訳しましたが、
“「あなたって変な顔」「写真にも向いてない」。でもね、本当はそんなあなたが好き”というシチュエーションは「女性から男性へ」のほうがまあ、今の世の中的にOKだろう、と。そういう訳です。
昔の日本では「愚妻」とか「器量の悪い家内でお恥ずかしい」とか言ったようですが、今だったら即別居ですな。。
知られざるヴァース
「知られざる」は大袈裟だったかもしれませんが、私は実際歌っている人を聞いたことがありません。
なぜかしら?
恐らくマドリガル(イタリア発祥の歌曲形式)のメロディーと古語(You→Thou、See→Behold、Do→Dothなど。よく聖書の祈りの言葉などに使われています)の使用が「古すぎる」と感じさせてしまうのではないかと思います。
そんな古い英語だらけのヴァースを簡単に訳してみるとこんな感じです:
見よ、我らが愛しき羽毛の友が
誇らしげに美徳を掲げる姿を
されど、おろかなる友よ、汝は知らぬ
己が描き出した姿のことを
虚ろな額(ひたい)、乱れた髪の下に
汝(なんじ)の善き心は隠されている
高潔にして正直、誠実で偽りなき者よ
そして、ほんの少し間の抜けた紳士よ
珍しいエラ・フィッツジェラルドのヴァース⇓
曲の特徴
”暗くて最後まで盛り上がらない歌だよね” というイメージを持つ方も多いと思うのですが、所々そうでもないんです。
まず、
マイナーキーで始まって(リチャード・ロジャースにとっては珍しいスタイル)、終わりのほうでちょこっとメジャーになるあたり、マニアが喜ぶツボらしいです。
実際、このアンビバレントでシャレと本音の混ざった愛の告白を表現するには、マイナーとメジャーのキーをうまく混在させる、というスタイルが合っており、これは当然の選択だったと言えるでしょう。
また、リチャード・ロジャースはシンプルなメロディーで始まって徐々に難しいコードを用いて曲を彩っていく、というスタイルを持っているのですが、この My Funny~ にもそれが現れており、それゆえにジャズ・ミュージシャンから愛され、演奏され続けているのです。
ではいくつかの動画をご紹介して My Funny Valentine のお話を終わりたいと思います。
1.マイルス・デイヴィス
2.痺れるチェット・ベイカーのライブ版をどうぞ。男性シンガーの皆様、ぜひやって下さい♥
3.珍しいところで Fabulous Baker Boys(恋のゆくえ)のミシェル・ファイファーの歌を。
なんとかバレンタインデー前にアップできました。良かった(;’∀’)!
See you next time!